もっと公務員をほめる仕組みをー小田原市の生活保護ワーカーのニュースを読んで
神奈川県小田原市の生活保護のケースワーカーが
生活保護受給者に対して「保護なめんな」とかいう
文字の入ったおそろいのジャンパーを着ていたという
衝撃のニュースを見ました。
www.yomiuri.co.jp
もちろんこれには各方面から非難轟轟。
生活保護のケースワーカーというのは
生きていくにあたって、生活保護を
受給せざるを得ない状況にある人たちに対して
健康的で文化的な最低限度の生活を保障していく上で
欠かせないサポートをしていく仕事をする人です。
市役所・区役所・町村役場の生活保護に関わる部署の人が
この仕事を担当します。
生活保護を受給せざるを得ない人というのは
高齢であったり、心身の病気や障害のために
働けなかったりして、収入や資産が少ない人です。
生活保護のケースワーカーは、受給している
その人ごとの事情に応じて、
必要なサポート(通院、就労支援、家計、子育て等々
あらゆる生活上の相談にのる)をすることが仕事です。
もちろん、生活保護という制度を適正に運用するために
法律にのっとった額の保護費がきちんと支給できているか*1を
チェックする、という仕事もあるけれど
それはワーカーの仕事からしたらほんの一部のことです。
そもそも不正に生活保護費を受給している人も
生活保護受給者のごくわずか、ほんの一部です。
「不正に」といっても、高校生の子のアルバイト代とかを
うっかり申告し忘れていた、とかも含めて「不正」なので
悪気のあるヤクザ屋さんみたいな人なんてほぼいないですよ。
(H23年の調査だと不正受給は受給世帯約160万世帯のうち3万5,568件
件数を世帯数で割ったとしても2.2%程度*2)
これは絶対アウト。そもそもこんなジャンパーを平気で着てしまう背景に、福祉のスキルと倫理、意欲のない職員をワーカー配置している、という構造的問題もある。→ジャンパーに生活保護「なめんな」、市職員訪問 : 読売新聞
— 竹端寛 (@takebata) January 17, 2017
https://t.co/JBFa6YczpQ
小田原市の生活保護制度の説明のページが……。これ相談しようと思って最初にここ読んだひとは不安になるだろうなあ。 小田原市|生活保護制度について https://t.co/LNv52lShgd
— 岸政彦 (@sociologbook) January 17, 2017
↑まさにおっしゃる通りで
こんなジャンパーを堂々と着てしまう時点で
生活保護ケースワーカーの仕事を全然わかっていない。
受給者は敵でもないしそれ自体をもって悪人でもない。
それは生活保護を受給して「いない」市民が
それ自体で、役所の人の敵でもないし悪人でもないのと同じだ。
これに対して、良識ある市民の方々や
生活保護制度に詳しい良識ある人々からは非難轟轟。
そりゃそうですよ。ありえないですよ。
まさに「福祉のスキルと倫理、意欲のない職員」そのものですよ。
だけど、考えてみると
市役所の人って、「生活保護のケースワーカー」をやりたくて
公務員試験を受けた人ばかりではないわけですよ。
(※そういう人もいます。
道路を作る専門の人が技術職として公務員になるみたいに
福祉職として採用される人もいるので)
生活保護の係になるまで生活保護の制度をよく知らない人や
水道局や観光局にしかいたことのない人も
いきなり生活保護の係になって
100人くらいの人の担当になったりするわけなので。
でもさー、そんなの「甘い」って思いますやん?
フレンチのシェフになりたくてレストランに入っても
最初は皿洗いをするし
クルマの設計がしたくて自動車会社に入っても
最初は工場で塗装係をやったり、販売店に配属になったり。
でも、それは一生懸命やるでしょ。
けど、それって「美味しいものを作るために必要なこと」
「いいクルマを作るために必要なこと」っていう
ミッションが共有されているから、
自分のやりたい業務に直接関われなくても頑張れるわけで。
そして、そのミッションに貢献すればそれに応じた報いが
あるからできるわけでしょ。
生活保護のケースワーカーさんって
何をもって、その人の仕事を「評価」されるのでしょうか?
サラリーマンだと評価される方法は大きく分けると2つです。
「売上(収益)を増やす」 か
「経費を削減してコストダウンする」 のどっちかです。
公務員の人は、何をもって評価されるんでしょう?
自分なりに考えてみたんだけど
例えば企業をたくさん誘致したとか、
企業活動をしやすい環境を整備したとか、
生産年齢人口の人をたくさん移住させたとか
訪れる観光客増やして
税収を上げた/上げそうな施策を打ったというのもそうでしょう。
必要でない事業を縮小したり
効率の良いやり方を考えたりして
コストダウンに貢献したというのもそうでしょう。
で、その中でも「生活保護のケースワーカー」は
どうしたら、評価されるんでしょうか?
ほめられるんでしょうか?
公務員というのは、世間では
「安定していていい仕事」みたいに言われているけど
その反面「文句ばっかり言われる仕事」でもあるわけです。
役所の窓口、税金の徴収、上下水道、
道路、学校、保健所、図書館、ごみの回収、バス、地下鉄…
これらは「普通に、トラブルなく動いていて、当たり前」であって
ホメられることも、注目されることもありません。
その代わり、何かイレギュラーなことがあれば
むっちゃくちゃ怒られ、問題にされ、新聞に載ります。
生活保護のケースワーカーは
世間や上司からは「不正受給を一件も出すなー!」と怒られ
どんなに尽くしても、受給者からは
プライバシーに踏み込まれて嫌な顔をされ
(受給者自身も、それは仕方のないことと分かっていながら
毎年資産状況や生活状況をを確認されるのは
恥ずかしいし、気持ちのいいことではないですよね)
そんなにほめられることもありません。
それでも、暮らしに困って生活保護を受給した人に
話を丁寧に聞き、必要な制度の利用を助け、
あたたかく励まし続けて、その人やその人の生活が
その人らしく立ち直り
「本当にありがとうございます。
あなた(=ケースワーカー)のおかげです」
と感謝されることもあります。
そういうことを励みに、頑張れるのだ
というワーカーさんもたくさんいます。
でも、そういう人ばかりではないし
そういう人も、くじけそうになる時やくじける時があります。
同僚たちが新しい、画期的な法律を作って注目されたり
チャレンジングなまちづくりの取組みをしているのを横目に
深夜まで残業しながら、受給者の書類のチェックや
障害年金の計算、訪問日程の調整をしている人たちを
もっとエンパワーする方法はないのかと思います。
保護費を減らした、納税者を増やした
だけではなく
例えば、滋賀県野洲市の取組みのように
「生活に困った人がいる」という現状を
市政の改善の起爆剤、
庁内連携のきっかけにしていく取組みができるようにしていくとか
小平市議会議員 石毛航太郎|公式ブログ 歩歩是道場
www.jiam.jp
あるいは、SROIを生活保護行政の評価に取り入れてみるとか。
ケースワーカーの、受給者へのはたらきかけによっては
保護費以上の社会的インパクトが、必ず出ていると思うんだけど。
SROIの概要 – 特定非営利活動法人SROIネットワークジャパン
悪いことが起こったら、きちんと市民として、専門家として怒り
それを正すことを求めるのは当然のこと。
でも、同じだけ
良い取り組み、良い頑張り、良いチャレンジに対しては
きちんとホメていく、評価していく
その両輪がなければ、行政は良くならないし
その結果、生活保護を受給せざるを得ないような
最も弱くされた立場の人たちの暮らしも良くならない。
わたしは、そう思います。
唖然とした。最悪。しかしこのデザイン傾向は興味深い。ヤンキーというか、オラオラ系のギャング的センスなんだな。逆に自分たちのアイデンティティをどう捉えているのかが気になる。ジャンパーに生活保護「なめんな」、市職員訪問 : 読売新聞
— Masaya CHIBA 千葉雅也 (@masayachiba) January 17, 2017
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