#レコーディングダイエット

毎日食べたものを書きます

矢印の向きをそろえないー【市民セクター全国会議2018】分科会4・休眠預金

市民セクター全国会議2018の感想の続きです。
(前の記事はこちら↓)
yoshimi-deluxe.hatenablog.com


お昼からは分科会4「休眠預金等の活用は社会課題の解決につながるか?」に参加しました。
http://www.jnpoc.ne.jp/ss2018/2018/08/22/bun14/www.jnpoc.ne.jp

10年以上出入りのない預金を原資に、民間団体が実施するの公益活動に700億円が支出されるといわれている休眠預金制度。700億円というのがどれだけの金額かと言うと、現在の日本の民間資金を元に設立された20団体の助成額と、中央共同募金(赤い羽根)を足した金額(524億円弱)よりもデカいということです。

休眠預金制度はパブリックコメントの内容が審議会で全く議論されないなど、成立までのプロセスに大きな疑問が残るほか、これだけの額のお金の運用を1つの団体(指定活用団体)に任されていたりとその内容にも様々な問題が指摘されています。にもかかわらず制度はあまり知られておらず、NPOも中間支援団体もその内容をほとんど知らないという状況になっています。そのため、分科会の10日前には参加者に制度の概要と問題点をまとめた資料がメールで送られてきました。

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律 説明資料」
内閣府
http://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/setsumeisiryou/siryoshu.pdf

「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」(内閣府
http://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/kihonhoshin/kihonhoshin_1.pdf
http://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/kihonhoshin/kihonhoshin_2.pdf (概要版)

「現場視点で休眠預金を考える会」意見書
https://peraichi.com/landing_pages/view/kyuminnyokinnpo

登壇者のおひとり、奥田裕之さんに寄稿いただいた記事
「休眠預金の問題を通して、もう一度『市民社会』を考えたい」
http://npocross.net/538/

また、実況は禁止って書いてあったんですけど、登壇者の許可をとってこの分科会を実況された方がいました。私も許可取ればよかった。。。
togetter.com

なので、私は特に印象に残った「福岡すまいの会」の服部さんの問題提起に絞って書きたいと思います。

支給決定と「伴走支援」が同じ人でいいのか?

福岡すまいの会の服部広隆さんは、ホームレス状態にある人や生活保護を受けている人などへの支援活動をされています。
現在の仕組みでは、その人に生活保護費を支給するかどうかの「支給決定」と、生活面での支援を生活保護を担当するケースワーカーと呼ばれる市町村の福祉事務所の職員の人が担当することになっています。

f:id:yoshimi_deluxe:20181123064830j:plain
(服部さんの資料をもとにyoshimi_deluxeが泊まったホテルのメモ帳に手書きで作成)

お金の出し手と生活の支援を担当する人が同じだと「働きなさい」とか「××はやめなさい」とかケースワーカーに言われたら、「はい」と言って従わざるをえないのではないでしょうか。でも働けと言われてすぐ働けるならば、生活保護が必要な状態にはそもそもならないわけです。
その人には様々な事情があり、自分でもなんとかしたいんだけどどうにもならなくて困っている。そういうことを一緒に考えていくことが支援だと思うんですが、お金をあげるーもらうという関係性が固定されている中で、ぶっちゃけた相談が果たしてできるものでしょうか。

f:id:yoshimi_deluxe:20181123065743j:plain

服部さんが提案したのが、一対一の関係でなくそこに介入するソーシャルワーカーに相談援助の機能を持たせ、三角形の関係をつくることです。生活保護を利用している人のまわりに一方的ではない力関係をつくることで、その人の権利を守り支えていくことができるのではないかと。

休眠預金は、

全国で一つの指定活用団体 → 地域ごとに選ばれるといわれている資金分配団体 → 実際に助成を受ける団体(NPOなど)

という方向にお金が流れ、かつ「資金分配団体」はお金を挙げるだけでなく、助成を受ける団体に「伴走支援」するーつまり活動に口出ししたりするーことも求められるようです。NPOが資金分配団体や指定活用団体の意向を気にして、自分たちの活動に無理をきたすことがないといえるでしょうか。

服部さんが提案したのは、資金分配を受ける資金分配団体と、伴走支援をする資金分配団体を分けて助成を受ける側が選べるようにできないかとか、どの資金分配団体にでも助成を受ける側の団体が応募できる(愛知県の団体は、愛知県のこの資金分配団体にしか応募できない、とかじゃなくて)ようにするとか。矢印の向きを一方向にしないで、支援が支配にならない構造を作れないかということでした。

NPOが「休眠預金を使って」活動をする意味とは

ちなみに休眠預金というのは「民間団体がおこなう公益活動」のために使われるのであって、助成を受けるのはNPO法人などに限らず株式会社でもOKなんだそうです。

だけど休眠預金って、知れば知るほどモヤっとする制度です。

どこの誰とも知らない人が、うっかり忘れてそのままになっているお金。それを使わせていただいたところで誰も困らないし*1、財源に困っている団体に新しい資金ができるならいいじゃないですか。

…とは単純に思えない私がいまして。
そもそもNPOって、もともとは自分がこれはおかしいな、とか、こうしたいな、と思った人が、同じ思いの人と一緒にやっていくものじゃなかったでしょうか。人もお金も共感してくれる人から少しずつでも集める。誰に言われるのでもなく、自分たちのことを自分たちで決めて行動する。それが「市民社会」というものではないのでしょうか。

富国というのはまさにビジネスを大きくすること、商売を繁盛させることですね。強兵というのはまさに行政セクターを大きくして支配しようということなんです。軍隊だけのことじゃなくて、近代化というのは、結局この二つのことをなるべく最短距離でやりましょうというのが東アジアの特徴的な近代化です。
 そこでは、この二つが主になるというのは、まさに「公=パブリック」ということがこの行政と企業という二つにセクターに独占されるといってもいいのです。特に、国に独占されたわけですから、人々が力を合わせて助け合うとか、地域のために行動する、社会のために行動するという行為そのものが、社会的に評価されない。(中略)
けれども、もうそろそろグローバルスタンダードで外からぶち壊されているわけです。(中略)もう一つはグローバルスタンダードではなくて、「そういうことはおかしいよ」という市民自身が、自分たちのことや社会全体のこと、あるいはこの地域で寝たきり老人のこととか、まさに「社会」のことなんですが、そのことを市民が自分で担って考えましょうと言い出した。つまり「公共的なことをやる市民」というのがこの間非常に増えたわけです。(加藤哲夫「市民の日本語」2002年,ひつじ書房

「人々が力を合わせて助け合うとか、地域のために行動する、社会のために行動するという行為」を社会的に評価するために、NPO法というのが20年前に施行されたのではなかったのでしょうか。そういうことに、「あるから」という理由で、誰の意思も入っていない、もやっとしたお金を使ってもいいものなんでしょうか。もしも「よい」ということであれば、もともと誰かのものだったお金をその人の意思に関係なく使ってでも「公益」のためにやらなければいけない事業とは何なのか。そういうことを考えなければいけないと思いました。

 そして、「革新的な」事業案を出して、「大きな成果」を出すことで大きなお金を獲得していく活動だけでなく、なけなしのお金と、少しずつのボランティアの力でも、コツコツと自分たちにとって本当に大切だと思える活動の価値を、きちんと認識して尊重していかなければならないなと思いました。それは、清貧だとかピュアだからという理由ではありません。自分や自分たちの社会を支配するーされるの関係で苦しくしないための、ラディカルな手段でもあるのではないかと考えるからです。

つづく…。

(2018/11/26追記)
分科会4に登壇された実吉さん、藤枝さん、奥田さんもメンバーの「現場視点で休眠預金を考える会」が署名を集めています。
休眠預金がより民主的に使われるための意見書に賛同される方は、ぜひ署名をお願いします。
peraichi.com



*1:休眠預金は公益活動に使われたとしても、本人が申し出ればいつでも本人に戻ってきます