あこがれの人についに会えると思うと幸せ以外に何も感じられない
わたしが一番好きな小説家は保坂和志さんです。
大学生の時に「季節の記憶」を読んで以来、ずっとずっとずっと大好きなんです。
保阪さんの書いたものを読まなければ
ライターの仕事をしようとは思わなかったと思う。
保阪さんの小説は、クライマックスも
わかりやすい起承転結も序破急もなく
寄せては返す波のような日常がずっと描かれる
ようでいて、でもひとつとして同じ波がこないように
日常の中に立ち上がる不思議、
当たり前と思って通り過ぎてしまうものの中にある
鋭く現実を裂く何かが書かれていて
夢中で読んでしまう。
読み始めた20代の頃は、
このじわじわとこみあげてくる何かと
思いがけず出会うキラキラまぶしいものから
「ディープハウス」のような小説だあなんて感じていたけれど
同時期に出たフィッシュマンズの「ロング・シーズン」みたいだと評していた人もいた。
「季節の記憶」のクイちゃんの様子とか
最後のビデオのところなんか最&高だし
「カンバセイション・ピース」では
見たこともない横浜のローズ選手のファンになってしまうし
「書きあぐねている人の小説入門」なんて
辛いとき、苦しいとき、悩んだとき、
嬉しいとき、楽しいとき、未来を夢見たとき、
自分なんか何の価値もないと思ったとき、
もう何度読んだかわからない。
「言葉にならない気持ち」と言ってしまうと、気持ちが先にあってそれを言葉にしていくみたいなことになってしまう。みんなたいていそう思っているけれど本当は逆で、気持ちよりも先に言葉がある。恋愛なんていうのはその最たるもので、人は自分の気持ちと呼べる以前の、方向や形の定まっていない内的なエネルギーを”恋愛”という既成の形に整えていく。そういう風に人間は言語が先立つ動物のはずなのに、その言語から気持ち以前の何かが洩れているようなことを感じることがあって、自分には十一月のこの気分がそうなんだと松井さんは言った。
(保坂和志「季節の記憶」中公文庫)
小説を書くということは、そうやって「書けてしまう文章」を書くことではなく、何もないところから自分の文章を立ち上げていくことだ。だから、書き出しはとても苦労するし、けっしてテンポよく書けない。スラスラ書けてしまう書き出し、テンポのいい書き出しは(他の部分も同じだが)、すでにあるものだと思ったほうがいい。
(保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」草思社)
いかにも人に伝わりそうな形容詞(社会的形容詞)を使っているかぎり、小説として人物が立ち上がらないから、小説性も立ち上がらない。この社会性と小説性の転倒は逆説に聞こえるかもしれないが、逆説はここには何もない。小説とは、その一つひとつの作品が持つ言葉の運動や原理によって成立するものであって、社会性によって成立するものではないからだ。「社会性」という言葉を「規制の価値」という言葉に置き換えたらもっとわかりやすいだろう。(中略)
小説家は、すでにある形容詞でものを見てはいけないのだ。(同)
私はこの本で「小説とは何か?」「小説を書くとはどういうことか?」をかなりしつこく書いていくつもりだと言った。
そのプロセスは、言葉を尽くす以上、ある程度論理的にならざるをえないけれど、読者は、私の言うことをできるだけ直観的・感覚的に受け止めてほしいし、そう読んだ方がわかりやすいようになっているはずだ。誤解したり歪めてもいいから、その人なりの感覚で何かを感じ取ること。これが、小説を書くときにもっとも大切なことだからだ。(同)
小学校の頃を思い出してみれば、先生からほめられて喜ばない子どもは一人もいなかったはずだ。ほめられて喜ぶということは、大げさに言えば「善に向かって成長したい」「善を志向している」ということで、それは大人になっても心の底には変わらずにある。(中略)ーーーだから、私は小説の登場人物を、人間には誰しもそういうまっとうな思いがある、という前提でつくっている。
一見そうは見えないかもしれないけれど、私の小説の登場人物が、みんな使命感をもっているか、少なくとも使命感のなさを自覚しているのは、そういう理由による。誰も近所で起こっていることや国際政治には興味は持たないけれど、みな「世界」には関心を持っている。
まっとうな思いとか使命感とかいうと、日本人は斜に構えて冷笑する傾向があるけれど、生きるということはやっぱりそういうことだと思う。(同)
小説は日常的思考様式そのままで書かれるものではないし、読まれるべきものでもない。日常が小説のいい悪いを決めるのではなく、小説が光源となって日常を照らして、ふだん使われる美意識や論理のあり方を作り出していく。(同)
・・・と好きなところを引用していくと永遠に終わりそうもないのでやめるけど、
なんとー!
5月21日に、本山のシマウマ書房の10周年記念イベントに
保阪和志さんが来るらしくーーー!!!
もうーーー絶対行くー!って見た瞬間に申し込んだもんね。
人間、夢は信じているといつか叶うのね。
名古屋の古本屋 シマウマ書房 (全国古書籍商組合連合会/名古屋古書籍商業協同組合所属 愛知県公安委員会許可 第541010600400号)
保阪さんに会えるのもうれしいし
名古屋で保阪さんのファンが近くにいるっていうのもうれしいな。
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