キスはゲロの味、だけれども---Ryugo Ishidaは「弱さ」をラップする
2016年の日本のヒップホップ界のブライテスト・ホープ
Ryugo Ishidaが大好きで
毎日毎日毎日聞いています!
Ryugo Ishida - キスはゲロの味 (Official Music Video)
初めて見たのがこのPV
「キスはゲロの味」で
今の若い人風の言葉で言うと完全に「食らった」。
よくあると言えばよくある
ワン・ナイト・ラブ・アフェア~の歌なんだけど
この「キスはゲロの味」というタイトルといい、
場末の遊び場のザラつき、
マイルドじゃないヤンキーの暮らし、
パリピでないタイプのパーティライフを物語る
諦めにも似た醒めた言葉。
それでも、この一夜、この刹那の快楽に
必要以上の魅力と期待を感じる気持ちを捨てられない心を
ウエットなフロウとトラックが奏でる
下品でロマンチックな曲だ。
このPVも素晴らしく、特に出演している金髪の女の子が素敵すぎる。
こんなにセクシーで、全然媚びてなくて、カッコいい子を
どこから発掘してきたんだろう、この子を出しただけで凄すぎる。
と思ってたんだけど
彼女はRyugoさんのガールフレンド、Sophieeさんというラッパーで
一緒に「ゆるふわギャング」というユニットもやっているのでした。
ゆるふわギャング "Dippin' Shake"
このPVと「キスはゲロの味」を比べると彼女の表現力の豊かさに驚かされる。
茨城県土浦市出身のRyugoさんが
東京のクラブでSophieeさんに出会った時
「Ryugo君のラップって『ゆるふわ』だよね」と
言われたというエピソードが好きで。
Ryugoさんの生い立ちに関するエピソードは
ネットのインタビューや動画で見られます。
小さい頃からかなりハードな環境で育ってきた、
(「13歳の時彼女がレイプされた」とか
「友達が何人もお金に困って自殺した」とか…。)
ということがインタビューからも、曲からも分かるんだけど
彼の唄いぶりにはマッチョなところがあまり感じられないんですよね。
どちらかというと、辛さや悲しさ、
もどかしさややり切れなさを歌う人だと感じる。
辛い 部屋は暗い
一人の夜 ただ今は辛いからこんなところから逃げ出したい
(Ryugo Ishida "Fifteen")
今年は「高校生ラップ選手権」とか
「フリースタイルダンジョン」が流行って
お茶の間ではラップというのは威勢よく喧嘩をしあうことだ
というふうに捉えられているかもしれない。
そういう文化でもあると思うので間違いではないけれど
彼のラップにはそれとは違う魅力がある。
彼も他のラッパーと同じように
自分はラップで勝ち上がるんだ、というようなことを歌うけれど
俺はやるぜ、という強気な歌詞と同時に
日々の生活に絶望してしまう気持ちにも正直だ。
夢と現実、希望と絶望、強さと弱さのあいだを
ふわふわと行きつ戻りつ揺れ動くようなフロウは
虚勢を張るだけのラップよりも
友情・努力・勝利の成り上がり物語よりも
実は、タフで確かなものを感じさせる。
社会不適合 バカにされる
でも夢はデカい 世界に挑んでいる
今は迷惑ばかりでゴメン 遊んでいるけどマジで遊んでるのさ
(Ryugo Ishida "YRB")
ナンパした女の子にゲロを吐かれたり
大きな夢を語った後、目が覚めたら便座の上だったり
寂れた街のあどけない顔のヤンチャな後輩たち、
そういう、どうしようもないもの、頼りないもの、
明日をも知れないもの、取るに足らないとされるものを
温かな眼差しで見つめ、切実さとユーモアたっぷりに伝える。
優れたラッパーは優れたストーリー・テラーでもあるんだな、
と思わされる。
きっと今夜もたくさんの人たちが
自らの思いのたけを伝えようと声を嗄らしていると思う。
彼ら彼女らの抱える状況の切実さを思うと胸が締め付けられるような気分になる。
そのことは、とても美しいことだけれど
「ゲロの味」と隣り合わせでもあると思う。
いや、「ゲロの味」だけれども
美しさと隣り合わせだと言うべきだろうか。