ウチに子ども用の百科事典があった話
私は小さい頃から本が好きで、母が「この子は家の中にばかりいて健康に悪いんじゃないか」と心配して庭に連れ出すと、外で勝手に遊んでいるので、よしよしと思って洗濯物を干したりしていると瞬く間に居なくなり、探しに行くとまた部屋で本を読んでいたそうです。
子ども用の本や絵本がたくさんあった記憶は全くないのですが、当時あった小学館の学習雑誌「めばえ」とか「幼稚園」とか「小学●年生」を毎月読んでいました。「めばえ」時代は記憶にないのですが、「小学●年生」になってからは毎月ねだって買ってもらっていたことを覚えています。当時は一年生から六年生まで、毎月学年ごとに違う雑誌が出ていたんですよ。次の号が出るころにはもうボロボロで、背表紙が剥がれバラバラになりそうでした。
父が本好きだったので、大人の本はたくさんありました。
漫画もあったので「こち亀」「キン肉マン」とかを読んで漢字を覚えました。好きな超人はステカセキングです。
父は子どもでも読めそうな本をたまに教えてくれ(芥川龍之介とか)、蜘蛛の糸の話とか幼な心に超~怖いと思ってトラウマになっていたんですが、ある日「アルジャーノンに花束を」を勧められ、読んでみたら面白かったんだけど、これをしょうがくせいのわたしによませるのわなぜなんだろう。と、戸惑いました。
なので、うちの子ども用の本棚に、子ども用の百科事典があってもあまり不思議に思いませんでした。
子ども用の百科事典というのはどういうものかというと、B4くらいの大きさで、厚さ3センチほど。ハードカバーで、ケース付き。歴史・文学・地理(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、日本とか地域ごとで1冊ずつ)・数学・科学・昆虫・植物・動物・海洋生物とかとかそんな感じで全20巻くらいあるんですわ。で、内容を子ども用にやわらかくまとめてあり、もちろんオールカラー。厚くてつるつるの光沢のある紙に印刷してあるんです。
本棚から出すだけでも重たくて、ケースから出したり、またしまったりするのもクソ面倒で。私は歴史(「おはなし」みたいで面白かった)と植物の図鑑だけは好きでよく見ていたんだけど、他はあまり見ないでいました。昆虫、きもいし…。
わたしは長年、この百科事典は父が道楽で買ったものだと思っていたんですが、そうではなかったんです。
それは母が、わたしがまだ産まれたばかりで、1歳にもなっていない頃に、あやしげな訪問販売の人にそそのかされて、びっくりするような高いお金を出して買ったものだったというのです。
母は父と違って、全くと言っていいほど本を読まない人でした。高校も卒業したようだったけど、学校の勉強を一生懸命したほうではなかったようでした。私も母から勉強しろとかいい学校に行けとか言われたことは一度もありません。家事を覚えて早く嫁に行けとは言われたけど…。
それでも、母は訪問販売のセールスマンに、小さい頃から本を読むと頭が良くなりますよ、とか、すごく知識がつきますよ、とか、いい成績が取れる子になりますよ、とか言われて、大きく心が動いたのだろうと思います。
それは生まれたばかりの我が子を思う気持ちだったとも思うし、自分が生きられなかった人生への憧れでもあったと思います。
また、母は遊びが好きな父と違って、全然お金を使わない人でした。私は世の中のことが少しずつ分かるようになると、母はもう少しよい服や家電を買って贅沢しても家計は痛まないのではないかと思っていましたが、いつまでも古いものを使い続け、安物の服を買っていました。
それなのに、セールスマンが帰った後、父にものすごく怒られるような金額の、わけのわからない百科事典をポンと買ってしまっていたようなんです。まだ字も読めない子のために。(当時はクーリングオフとかなかったから買うしかなかったんでしょうね)。
それは我が子のためを思って、という気持ちも大いにあったと思うんだけど、同じだけ「頭のよい子の母であるステキな私」になりたい母の欲望のため、でもあったんだろうな、と私は思います。
でも、これを知った時、私はそんな母が本当に愛おしくてたまらなくなりました。百科事典を買ってくれてありがとう(ほぼ読んでないけど)と思いました。それは、もう母が亡くなった後だったんですけど。
子育てをしている人のブログなどを読むと、それは本当に子どものためなのか?母のエゴではないのか?という親本人による葛藤や、外野からの批判やツッコミをよく見かけます。そのたびに、うわー子育て大変だな~、やっぱり自分には無理だな~と思うけれども、
親からしたら子どもがアホみたいなことでも一生懸命にやっている姿を愛おしく感じるように、子どもから見ても親が一生懸命なあまりに何か滑稽なことになっているとしても、それは愛おしいことだし、ありがたいことだと感じられるんじゃないかなと思いました。
感じる時期は、親が死んだ後かもしれないですが…。
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