5000人の友だち
引越しをするので、毎日少しずつ本を新居に運び入れている。
重たくて重たくて、こんなに重たいわ場所をとるわではそりゃあみんな電子書籍にするよな~、と思う。
思っていたら、スーザン・ソンタグさんがこんなことを言っていたと知り、ジーンときてしまった。
本は沢山ありますよ。
下の階にも。でも、本を減らすべきだとは思わない。友だちが5千人もいるようなものですから。しかもこれらの友だちは、とても控え目で、私が声をかけるまで邪魔はしない。
ときには、D・H・ロレンスの本の前に立っただけで、本をとり出しもしないことがある。出さなくてもわかるんですよ。そこに何があるのかが。かれがそこに居てくれると思うと、それだけで満足なんです。しかも私は図書館嫌いときているので、わざわざ出かけて行かなくとも、かれがそこに居るということがとても嬉しい。好きな作品はそばに置いておきたい。これは敬意の表明でもある。本を沢山もっているということは、キーが沢山ある楽器をもっているようなもので、その時どきに合わせてキーが選べる。ただ眺めて、どんな音かを思い出すだけで充分なこともあります。本やレコードは物質的というより、もっと別なものを与えてくれるものとしてある。(『objet magazine 遊』2期:1006・1007 スーザン・ソンタグ3 727「ラディカル・ウィルの速度に乗って <前篇>・<後篇>スーザン・ソンタグ=松岡正剛」通訳翻訳=村田恵子・木幡和枝)
そうなんだ、本は友だちだったんだ、と思うと泣けてきた。
高野文子さんの「黄色い本」の中で、主人公が「チボー家の人々」の登場人物と、まるで生きている人間とするように会話するシーンがある。いや、「まるで生きているように」と書いたけれども、主人公にとっては「生きている」人なんじゃないか。まさに生きているのではないか。
本を読んでいて、そこに登場する人が、それを書いている作者が、それについて語っている人が、ありありと現れてくるように感じることがある。励まされたり、ひどく傷ついたり、憧れたり、眠くなったり、ドキドキしたりする。手で触れたり声を出して話し合ったりするよりも、ずっと確かなものを感じて心や体が動かされることがある。
ソンタグは「控え目な友だち」と言っているけれど、私にとって本は、私の孤独を尊重してくれる優しさのある友だちだと感じた。
最近はネットばかり見て、たいして読まなくなってしまったんだけど、ほとんどの本が新居に行ってしまってさびしい。そうか、このさびしさは友だちと離れたさびしさなんだなあと思った。(それでも、数十冊の本は売ったりあげたりしてお別れした)
写真は、とはいえ家に何も読むものがないのは嫌だと思って残しておいた3冊と、運び忘れていただけのWIREDのアフリカ特集*1。比較的あたらしいお友だちばかりなのは、心があたらしい方向に向かっているからなのでしょーか。
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*1:写真がとてもかっこいい。買ってよかった